ドライラボ×バー

その男にとって、バーの一角はひとつの居場所であった。薄暗いお店の中で感じのいい音楽となんとも言えぬ空気感。孤独であることを魅力に感じ、この時間を愛することに満足感を得ることが出来る。自らジャズなんか聴く人間ではないが、この空間で聴くと体にしっくりくるきがする。そう思いながら、華の金曜日は1人で、孤独で飲んでいた。

 

彼が独りでバーに行くようになるには、男が熟し余裕が出る年齢になってやっとだった。内気で、人と接するのが苦手な彼は二十歳ごろに彼女が1人できた。しかし、一年足らずで上手くいかず別れ、その後特に女の人と接することもなく、孤独で生きてきた。何故できないのか、どうすればいいのかとは思いつつ、仕事が楽しく、また女性関係で面倒(片思いをすることでさえも)で億劫で、恋愛を避けてきてしまった。その結果30を過ぎ、あとひと歩きすれば40に近づく。あぁしじゅうである。

 

女性を綺麗だ可愛いだは思う感情は生きているが、頭でっかちになってしまって、そしてプライドが傷つけられることを恐れ恋愛することに蓋をしてしまっている。

出来ない、しなくていいと思えば楽なのだ。

仮に可愛いくて、素敵なひとに出会えば、少し考えてみる。こんな子と付き合えたら、と。

あそこのお店でデートをして、誕生日は高級レストランでディナーをして、彼女の笑顔を見て。それだけで最高である。そして、そんなことを考えている隙にその子は誰かのものになり、消えてしまう。しかし、僕が考えたデートの時間は消えない。この時間は有意義な時間なのだ。妄想のような薄汚れた欲望とは違う。まるで、ドライラボのような、実物を使わなくても結果を生み出すことのできるようなそんなものなのだ。

寂しくなんかない。僕の頭を得てすれば、どんな女の子とも付き合え、キスをし、彼女を笑顔にすることができる。最高の付き合い方である。

 

そうやって、今日も孤独を愛する。

寂しくなんかない。